編み物好きさんにインタビューして、編み物をどう楽しんでいるのかを伺う企画「そこに糸があるから」。今回は「鯨骨堂」素馨さんにお話をお伺いしました!
原材料に近いところから作りたがるこどもだった
アクセサリー作りが好きでずっと独学でワイヤークロッシェを編まれている素馨さん。現在は日本ヴォーグ社のかぎ針編み、棒針編み講師通信講座を受講されているそう。
-人生で初めて編みものに触れたのはいつですか?
幼稚園の頃に近所の駄菓子屋兼おもちゃ屋さんでリリヤンメーカーを買ってもらって、リリヤンを編んだのが一番初めです。小さい頃から手を動かすのがとにかく好きで、人形遊び用のケーキなどの小物を粘土で作って遊ぶような、”原材料に近いところ”から作りたがるこどもでした。
-棒針編みやかぎ針編みなどの本格的な編みものをされたのはいつですか?
小4のときに母が急に「糸を染めたい」と言い出して、アパートの小さな台所で玉葱の皮で白い毛糸を染めはじめたんです。「この人何やってるんだろ」と半ば呆れながら見ていたのですが、染め上がった糸が赤茶色の本当に玉葱の皮の色そのものの色になっていて驚きました。
その染まった糸を母が「素馨ちゃん、編んでみない?」と言ってきたので、「仕方ないからやるか」と思って棒針編みのマフラーを編んだのが最初です。
算数が苦手だったので、目数を数える編みものにはとても苦手意識があって、間違えてしまうことも怖かったので本当にしぶしぶやったのを覚えています。
最初は作り目だけ母に作ってもらって、簡単なガーター編みをしたのですが、単純なことの繰り返し作業でとちゅうで飽きてしまって、そのマフラーはそのまま放置してしまいました。今も模様編みのほうがサクサク進みますね。
ワイヤーって編めるんじゃないか?と思って編みはじめた
-そこから編みものはずっとされていましたか?
いえ、そこからは全然しない時期が続きました。
小中学生の頃は音楽の道に進みたくて音大を目指していたのですが、途中で美術の道に進みたいと思うようになって、小さい頃から好きだったアクセサリー作りを主にやっていました。
高校は美術科のある専修学校に進んで、鋳造や鍛金、彫金などの金属工芸を学んだり、高校を中退してからも金属工芸を続けたいと思って高校の先生自身がお持ちの工房に通ったりもしていました。
中学くらいの頃から鬱傾向があって、家から出るのに苦労していたので、家でできる金属工芸はなにかないかな、と思って思い当たったのがワイヤーラッピングでした。
ワイヤーラッピングを続けるうちに、既存のパーツを使うことではあきたらなくなり、金具も自作するようになって、そのうち「ワイヤーって編めるんじゃないか?」と思ってワイヤーを編むようになりました。
-それで編みものを再開されたんですね!ワイヤーを編むようになったのはいつ頃ですか?
20歳くらいの頃のことです。それまで編みものは全然しませんでした。
金属を編むので、竹の針だと針が摩耗してしまうのでは?と思って金属の針のものを、と見つけたのがかぎ針でした。そのときは母に細編みと長編みと鎖編みだけ教わって、編んでいました。
ワイヤーは金属なので、間違えて解くと金属疲労で切れてしまうことがわかって、失敗作でおかねがなくなってしまうのが悔しくて、オリムパスのエミーグランデで試し編みをしてから本番を編むようにしていました。
みんなに「売れるよ!」と言われて、minneで売ってみたのですが全然売れなくて、どうしてだろうと考えたときに”オリジナリティ”がないからじゃないかと思いあたったんです。
元々母から「人とは違うことはいいことだよ」と言われて育ったので、その考え方が根底にあって、もっといろんな技法を知ろうと思って色んな編みものの本を見るようになりました。
その中の一つがきむらななえさんのワイヤークロッシェの本で、そこでワイヤークロッシェという名前を知って、自分がワイヤーを編むことの第一人者だと思っていたのですが「もうやっている人がいたんだ」と少しがっかりしました。
でもこの本で、例えば「編み目を整えるときは目打ちをつかう」など、色々なことを学ぶことができました。
-その頃にワイヤー以外のものも編みはじめたのですか?
はい。エミーグランデ以外の毛糸で、太い糸のほうが編みやすそうという理由で並太くらいの毛糸であみぐるみを編みました。平面よりも立体のほうが好きだったのであみぐるみを選んだのを覚えています。最初は本の通りに編んでいたのですが、やっぱりオリジナルが作りたくなって、はじめて編んだオリジナルのあみぐるみが羊のあみぐるみです。
毛糸はワイヤーと違って、編みなおせるのがよくて、それからは毛糸を編むのにハマりました。
でもマフラーの挫折経験から棒針編みに苦手意識があったので、どうしようかな、と思っていたときにアフガン編みを知って、それも母に習いながらペットボトルカバーやルームソックスなどを編みました。
そのあとアフガン編みで帽子を量産していた時期があったのですが、小さすぎたり大きすぎたり、最後の目を絞るところがうまくいかなかったりしていましたね。
-それからはずっとアフガン編みだったんですか?
やっぱり自分でデザインした服や小物が欲しいと思って、棒針編みの基礎の本を買って棒針編みに再チャレンジしました。
本の通りに編むのは間違えてしまうことが怖かったので、最初から自分で編み図を書いて、オリジナルでベストを作りました。本当はセーターになる予定だったのですが、袖を編んでいるうちに「これじゃあ糸が足りないぞ」と気づいて、編んではほどきを繰り返して結局ベストにしました。
そのあとも黒いセーターが欲しい、と思って模様集の本を買ってぶっつけ本番でセーターを編んだのですがそれもサイズが合わなくなってしまいました。
あとは手袋にチャレンジしたこともあったのですが、指が6本になってしまったものもありました笑
そういったことを経て、「ちゃんと習ってみたい」と思い、今年の6月に日本ヴォーグ社の棒針編みとかぎ針編みの講師の通信講座を受講し始めました。
素馨さんおすすめの糸と針
-おすすめの糸はありますか?
ハマナカウォッシュコットンとウォッシュコットンクロッシェです!
洗濯機OKなのが嬉しいです。結構雑な方なので笑
-おすすめの針はありますか?
ハマナカのあみあみ長4本針が好きです!
他のメーカーさんだと結構お値段がするのですが、比較的手頃なお値段で、100均の針とは段違いに使い心地が良いのでありがたいです。
何も作っていない自分が嫌→そんな自分もありかなと思えるようになった
-今編みものをしていて一番楽しいのはどんなときですか?
糸始末を終えてできあがった瞬間が一番楽しいです!
ずっと音楽をやっていて、音楽はもちろん録音して残すこともできますが、パフォーマンスとしてその瞬間で消えてなくなってしまうものだと思っています。それに比べて編みものはかけた時間が残って形になるので、成果が目に見えるところがいいと思います。
-最後に、あなたは何故編みものをするのですか?
”何も作っていない自分が嫌だから”です。
今まではずっとそう思っていました。だからずっと手を動かしていないと生きた心地がしなかったのですが、でも最近は何も作っていない、そんな自分でもいいのかなって思います。
自分を許せるようになったっていうのかな。
-素敵なお話をありがとうございました!
「鯨骨堂」素馨さんプロフィール
30歳、女性。
アクセサリー作りが好きでずっと独学でワイヤークロッシェを編んでいた。
現在は日本ヴォーグ社のかぎ針編み、棒針編み講師通信講座を受講中。
Twitter→( @geikotsudou_j )
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